外国人という理由で入居を断ることはできる? 断ることができるケースも合わせて弁護士が解説

はじめに

賃貸物件のオーナー様から、「外国籍の方から入居の申し込みがあったが、言葉や生活習慣の違いによるトラブルが不安で、できれば断りたい」というご相談をいただくことが増えています。日本で暮らす外国人の数は年々増加しており、賃貸住宅の入居希望者に占める外国人の割合も高まっています。

一方で、「外国人だから」という理由だけで入居を断ってしまうと、法的なリスクを負う可能性があることをご存じでしょうか。本コラムでは、賃貸人の立場から、外国人であることを理由に入居を拒否できるのか、また、どのような場合であれば入居を断ることが認められるのかについて、弁護士の視点から解説します。

外国人という理由だけで入居を断ることはできる?

契約自由の原則と限界

民法上、誰と契約を締結するかは当事者の自由に委ねられており、賃貸人には「契約自由の原則」があります。この原則からすれば、賃貸人が入居希望者を選別すること自体は、本来自由なはずです。

しかし、この自由には限界があります。国籍や人種といった、本人の努力では変えることのできない属性のみを理由に契約を拒絶することは、不当な差別として違法と評価されるリスクが高いのです。

過去の裁判例

実際に、外国人であることを理由とした入居拒否について、賃貸人側の責任を認めた裁判例が複数存在します。

たとえば、韓国籍であることを理由に入居申し込みを断った事案では、大阪高等裁判所が、国籍を理由とする契約拒否は憲法14条1項の趣旨に反する不合理な差別であり、社会的に許容し得る限度を超える違法なものであると判断し、慰謝料の支払いを一部認めました(尼崎入居差別訴訟・大阪高判平成18105日)。

また、賃貸人が住民票の提出に固執し、最終的に日本国籍を有しないことを理由として契約を拒否した事案でも、京都地方裁判所は、合理的な理由がないにもかかわらず,本件賃貸借契約の締結を一方的に拒んだものであると判断し、慰謝料の支払いを命じています(京都地判平成19102日)。

このように、外国人であることを理由として賃貸借契約を締結しないことに対しては、損害賠償請求が認められる可能性があるというのが、現在の裁判例の傾向といえます。

ただし「契約締結義務」までは認められていない

注意していただきたいのは、これらの裁判例は、あくまで事後的な損害賠償責任を認めたものであり、「契約を締結せよ」という強制までを認めた例ではありません。つまり、外国人であることを理由に入居を断ってしまった場合、賃貸借契約そのものを強制されることはありませんが、慰謝料等の損害賠償責任を負うリスクは十分にあり得るということです。

入居を拒否することができるケース

「外国人だから」という属性のみを理由とする拒否は違法リスクが高い一方で、個別の事情に基づく合理的な理由があれば、入居を断ること自体は可能です。国籍にかかわらず、日本人の入居希望者に対しても同様に適用される基準であることがポイントです。以下、代表的なケースを見ていきましょう。

支払い能力に懸念がある場合

在職状況や収入が確認できず、家賃の継続的な支払いが困難と客観的に判断される場合は、入居をお断りする合理的な理由になり得ます。ただし、これは日本人の入居希望者に対しても同様に審査すべき事項であり、「外国人だから収入が不安定だろう」という推測のみで判断することは許されません。在職証明書や収入証明書などの提出書類に基づき、個別に審査することが重要です。

保証人・緊急連絡先が確保できない場合

連帯保証人や緊急連絡先を確保できないことは、賃貸人にとって回収不能リスクや万一の際の連絡不能リスクに直結するため、拒否の合理的理由となり得ます。もっとも、現在は外国人対応の家賃保証会社も充実してきており、こうした会社を活用すれば解消できる場合が多い点にも留意が必要です。

在留資格・在留期間に問題がある場合

在留カードなどで在留資格や在留期間を確認し、契約期間中に在留資格を失う可能性が高い、あるいは既に在留期間を超過しているなど、契約の前提となる法的地位に問題がある場合は、これを理由に入居をお断りすることに合理性が認められます。

物件の構造・規模に照らして人数超過となる場合

同居予定の家族構成や人数が、法令上または物件の規定上の居住人数制限を超える場合には、国籍を問わず契約を拒否する理由になります。

過去に契約違反やトラブルの実績が確認できる場合

騒音、無断転貸、原状回復への非協力など、具体的な契約違反行為の実績が確認できる場合には、それを理由として入居を拒否することは可能です。ただし、これも「外国人によくあるトラブル」という一般論ではなく、当該入居希望者本人についての具体的な事実に基づく必要があります。

重要なのは「属性」ではなく「個別の事情」

いずれのケースにも共通するのは、判断基準が「外国人であるかどうか」ではなく、支払い能力や在留資格、過去の契約履行状況といった個別・具体的な事情である点です。賃貸人が合理的な入居条件を設定すること自体は認められていますが、その基準を「国籍」に置き換えてしまうと、違法な差別と評価されるリスクが生じる点に注意が必要です。

なお、実務上、「外国人だから」という本音を隠し、別の理由を建前として契約を断るケースも見られますが、審査過程でのやり取りやメールなどから差別的な意図が推測されれば、結局は不当な差別と判断されるおそれがあります。断る理由は、後から説明を求められても揺るがない、客観的な資料に基づくものにしておくことが重要です。

外国人の入居者トラブルを未然に防ぐ方法

外国人の入居を単純に断るのではなく、事前の備えによってトラブルの多くは予防できます。空室対策の観点からも、外国人入居者の受け入れは有効な選択肢です。

外国人対応の家賃保証会社を活用する

連帯保証人を用意しにくい外国人入居者でも、外国人対応に強い家賃保証会社を利用すれば、家賃滞納リスクを抑えつつ受け入れることができます。多言語での生活サポートや緊急時対応まで含むサービスを選ぶと、より安心です。

契約内容・生活ルールを多言語・やさしい日本語で説明する

国土交通省は、外国語やわかりやすい日本語で書かれた入居ガイドブックを公開しています(外国人のための賃貸住宅入居の手引き(PDF))。敷金・礼金・更新料といった日本特有の慣行や、ゴミ出し・騒音といった生活ルール、電気・ガス・水道の契約や解約は入居者自身が行う必要があることなどを、契約前にしっかり説明しておくことが、後のトラブル防止につながります。

在留資格・在留期間を契約時にきちんと確認する

在留カードを確認し、在留資格の種類や在留期間を契約書上でも把握しておくことで、期間満了に伴う契約関係の整理がスムーズになります。

緊急連絡先の確保に工夫する

身寄りが少ない外国人入居者については、地域の居住支援協議会や居住支援法人が緊急連絡先としての機能を担っている場合があります。あわせて、勤務先や日本語学校などを緊急連絡先として確保する方法も検討できます。

審査基準を明文化し、統一的に運用する

支払い能力、保証人の有無、在留資格、過去のトラブル歴といった審査基準をあらかじめ明文化し、日本人・外国人を問わず同一の基準で運用することで、「国籍による差別」との評価を受けるリスクを大きく減らすことができます。

お気軽に弁護士にご相談を

外国人の入居希望者への対応は、賃貸人にとって不安を感じやすい場面である一方、対応を誤ると思わぬ損害賠償リスクを負うことにもなりかねません。「この入居申し込みを断ってよいか」「どのような審査基準を設けるべきか」といった個別の判断は、事案ごとの事情によって結論が変わり得るデリケートな問題です。

当事務所では、賃貸経営に関する審査基準の整備から、入居拒否をめぐるトラブル対応、契約書の見直しまで、賃貸人の皆様の立場に立ったサポートを行っております。外国人入居者への対応でお悩みの際は、お一人で抱え込まず、お気軽に弁護士までご相談ください。

代表パートナー・所長 
高橋 英伸
京都大学法学部卒業後、旧司法試験合格を経て2006年に弁護士登録。大阪市内の企業法務系事務所で15年のキャリアを積み、2021年に蒼生法律事務所を開設。相続・共有・所有者不明土地など空き地・空き家問題に注力。宅地建物取引士・相続アドバイザーの資格も保有し、不動産に関わる法的問題を総合的にサポートしています。
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