改正住宅セーフティネット法とは?単身高齢者の入居対応を弁護士が解説

はじめに(単身高齢者の増加と「借りづらい・貸しづらい」問題)

単身世帯の増加や持ち家率の低下を背景に、今後、高齢者や低額所得者、障害者などの「住宅確保要配慮者」が民間の賃貸住宅への入居を必要とする場面は、ますます増えていくと見込まれています。国土交通省の資料によれば、単身高齢者世帯は令和12年(2030年)には900万世帯に迫る見通しとされています。

一方で、賃貸住宅のオーナー(大家)の側には、孤独死や死亡後の残置物処理、家賃滞納などへの懸念から、高齢者の入居に慎重な方が少なくありません。国土交通省の調査でも、要配慮者の入居を拒否する理由として、居室内での死亡事故等への不安を挙げる大家が高齢者について約7割に達するとされており、その多くが「孤独死等への不安」を主な理由としています。

その結果、単身高齢者は「借りづらい」、大家は「貸しづらい」という、需給のミスマッチが生じているのが実情です。賃貸住宅には一定の空室があるにもかかわらず、両者の不安が解消されないために入居が進まない――この構造的な課題に対応するため、令和6年(2024年)に住宅セーフティネット法が改正され、令和7年(2025年)101日に施行されました。本稿では、弁護士の立場から、改正の内容と実務対応のポイントを解説します。

住宅セーフティネット法と2025年改正の概要

住宅セーフティネット法(正式名称:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)は、高齢者、低額所得者、被災者、障害者、子育て世帯など、住宅の確保に配慮を要する方(住宅確保要配慮者)への賃貸住宅の供給を促進するための法律です。平成29年(2017年)改正により、要配慮者の入居を拒まない住宅を都道府県等に登録する「セーフティネット登録住宅」の制度などが設けられ、その後、全国で800を超える居住支援法人が指定されるなど、地域の居住支援の担い手は着実に増加してきました。

しかし、単身高齢者世帯の増加が見込まれる一方、孤独死や残置物処理への大家の不安感は依然として大きく、さらなる制度的な後押しが必要とされていました。そこで令和6年の通常国会において、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律等の一部を改正する法律」(令和6年法律第43号)が令和665日に公布され、住宅セーフティネット法や高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)などが改正されました。

施行時期(2025101日施行)

改正法は、令和7年(2025年)101日に施行されました。認定家賃債務保証業者の認定申請や、居住支援法人による残置物処理等業務規程の認可申請などについては、施行に向けた準備行為として、令和771日から受付が開始されています。関連する省令は令和7624日、告示は令和7718日にそれぞれ公布・施行されており、法律・省令・告示が一体となって令和7101日から本格運用に入った形です。

改正の3本柱

国土交通省の説明によれば、改正法は以下の3点を柱としています。

  1. 大家と要配慮者のいずれもが安心して利用できる市場環境の整備 終身建物賃貸借の利用促進、居住支援法人による残置物処理の推進、家賃債務保証業者の認定制度の創設が図られました。
  2. 居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅の供給促進 新たに「居住サポート住宅」の認定制度が創設されました。
  3. 住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化 国土交通大臣及び厚生労働大臣が共同で基本方針を策定するとともに、市区町村による居住支援協議会の設置が努力義務化されました。

国土交通省は、施行後10年間で居住サポート住宅の供給戸数10万戸、居住支援協議会を設立した市区町村の人口カバー率9割を目標(KPI)として掲げています。

居住サポート住宅制度の創設

改正の大きな柱の一つが、「居住サポート住宅」制度の創設です。法律上の名称は「居住安定援助賃貸住宅」であり、居住支援法人等が大家と連携して入居者を支援する仕組みを備えた賃貸住宅として、市区町村長(福祉事務所を設置する自治体等)の認定を受けるものです。

居住サポート住宅に入居する要配慮者が生活保護受給者である場合には、住宅扶助費(家賃相当分)について、実施機関が大家に直接支払う代理納付が原則化されます。また、入居する要配慮者については、後述する認定家賃債務保証業者が家賃債務保証を原則として引き受ける仕組みとなっており、家賃滞納リスクの軽減という大家側のニーズにも応える設計になっています。

安否確認・見守り・福祉サービスとの連携

居住サポート住宅では、居住支援法人等が大家と連携し、次の3つの機能を担います。

  • 人感センサーなどICT機器を活用した日常の安否確認
  • 訪問等による見守り
  • 入居者の生活や心身の状況が不安定化した際に、自立相談支援機関や福祉事務所など適切な福祉サービスへつなぐこと

なお、これらのサポートを担う主体は居住支援法人に限られず、社会福祉法人やNPO法人、賃貸住宅管理会社なども担うことができるとされています。大家にとっては、入居者の異変を一人で抱え込むのではなく、専門機関と連携しながら対応できる体制が制度的に整えられた点に意義があります。

居住支援法人による残置物処理

単身高齢者の入居審査において大家が特に懸念するのが、入居者が孤独死等で死亡した場合の残置物(居室内に残された動産)の処理と、賃貸借契約の解除に関する手続きです。通常の賃貸借では、賃借人が死亡すると賃借権は相続人に承継されるのが原則であり、相続人の有無や所在が分からない場合には、契約解除や残置物の処分に手間と時間を要することになります。

この課題に対応するため、改正法では、居住支援法人の業務に「入居者からの委託に基づく残置物処理」が新たに追加されました(令和7101日施行)。実施にあたっては、国土交通省と法務省が令和36月に共同で策定した「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を活用することが基本とされています。

想定される実務の流れは、次のとおりです。

  1. 賃借人(単身高齢者等)が、賃借人の推定相続人、または居住支援法人・管理業者等の第三者を受任者として、賃貸借契約の解除に関する事務委任契約と、残置物の処理に関する事務委託契約を締結する
  2. 賃借人は、あらかじめ家財等を「指定残置物」(廃棄せず送付先等に送るもの)と「非指定残置物」に整理しておく
  3. 賃借人が死亡した場合、大家は受任者に死亡の事実を通知する
  4. 受任者が、賃貸借契約の解除および残置物の処理を実施する

このモデル契約条項はあくまで参考であり、利用が法令上義務づけられているものではありません。ただし、契約条項の設計を誤ると、残置物処理に関する条項が民法や消費者契約法との関係で無効と判断されるおそれがあるため、モデル契約条項に沿った設計が推奨されています。

家賃債務保証業者の認定制度

大家が単身高齢者の入居に慎重になる理由の一つに、家賃滞納リスクがあります。これに対応する制度として、平成29年(2017年)に大臣告示を根拠とする「登録家賃債務保証業者制度」が設けられていました。純資産額1,000万円以上であることや暴力団員等の関与がないことなど一定の基準を満たす業者を国土交通大臣が登録するもので、5年ごとに更新されます。

改正法では、これに加えて、住宅セーフティネット法に法律上の根拠を持つ「認定家賃債務保証業者制度」が新設されました。登録家賃債務保証業者等の中から、要配慮者にとって利用しやすい業者として一定の基準を満たすものを、国土交通大臣が認定する制度です。認定基準としては、次のような点が挙げられています。

  • 居住サポート住宅に入居する要配慮者の家賃債務保証を、正当な理由なく断らないこと
  • 緊急連絡先を親族などの個人に限定せず、法人でもよいとすること
  • 保証人の設定を契約の条件としないこと
  • すべての要配慮者との契約に関わる保証料が不当に高いものでないこと

また、独立行政法人住宅金融支援機構(JHF)による家賃債務保証保険の仕組みも整備されており、登録家賃債務保証業者の保証については保険割合が最大7割であるのに対し、認定家賃債務保証業者の保証については最大9割まで保険が適用されるとされています。これにより、認定業者が要配慮者の保証を引き受けるリスクが低減される仕組みとなっています。

終身建物賃貸借の活用

孤独死・残置物リスクへの別の対応策として、高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律。平成13年法律第26号)に基づく「終身建物賃貸借」制度があります。

通常の賃貸借契約では、賃借人が死亡しても、民法上の相続の一般原則により賃借権は相続人に承継されるため、大家が契約を終了させるには相続人を探索する必要が生じることがあります。これに対し、終身建物賃貸借は、都道府県知事等の認可を受けた事業者(終身賃貸事業者)が、借地借家法第30条の規定にかかわらず、「賃借人が死亡した時に賃貸借契約が終了する(賃借権は相続されない)」旨を契約で定めることができる特例的な制度です(高齢者住まい法第52条)。対象となるのは、60歳以上で、単身であるか、配偶者または60歳以上の親族と同居する方などであり、契約は書面(公正証書である必要はありません)によって締結する必要があります。

大家にとっては、賃借人の死亡後に相続人を探索して契約解除の手続きを行う必要がなくなり、次の入居者との契約に向けた準備を円滑に進められる点が大きなメリットです。

改正法では、この終身建物賃貸借の利用を促進するため、認可手続を住宅ごとの個別認可から事業者単位の認可へと簡素化するとともに、既存住宅を活用しやすくする観点から、床面積やバリアフリーに関する基準を緩和しました(例えば、専用部分の床面積は原則18平方メートル以上、共用のトイレ・浴室を備えるシェアハウス型の場合は13平方メートル以上等)。

オーナー・管理会社が押さえるべき実務ポイント

孤独死・残置物リスクへの備え(モデル契約条項)

賃貸住宅のオーナーや管理会社にとって、単身高齢者の受け入れを進める上での実務対応の中心となるのが、前述の「残置物の処理等に関するモデル契約条項」の活用です。モデル契約条項では、賃貸借契約の解除に関する委任契約と、残置物の処理に関する委託契約とを別の書面とする方式のほか、両者を1つの契約書にまとめる書式や、賃貸借契約書に特約条項として組み込む記載例も用意されています。

改正法により、これらの委任契約・委託契約の受任者として、賃借人の推定相続人だけでなく、居住支援法人にも業務を委託できる道が明確になったことは、身寄りのない単身高齢者を受け入れる際の実務上の選択肢を広げるものといえます。国土交通省が公表している活用ガイドブック(令和710月に第2版を公表)や、「大家さんのための単身入居者の受入れガイド」(令和710月に第5版を公表)なども、契約書式の具体的な設計にあたって参考になります。

入居中・退去時のトラブル予防

入居中・退去時のトラブルを防ぐ観点からは、次のような対応が考えられます。

  • 居住サポート住宅としての認定を検討し、居住支援法人等との連携により、入居者の異変の早期発見や福祉サービスへの橋渡し体制を構築すること
  • 認定家賃債務保証業者を活用し、家賃滞納リスクを軽減すること
  • 賃借人の死亡が発生した場合の通知・契約解除・残置物処理の手順を、あらかじめ委任契約・賃貸借契約の特約条項として明文化しておくこと
  • 死亡事故が発生した場合の入居者募集における説明義務については、国土交通省が令和3年(2021年)10月に策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」も踏まえて対応すること

これらの制度・ガイドラインを組み合わせて活用することで、大家・管理会社は、単身高齢者の受け入れに伴うリスクを個別に評価し、合理的な範囲でコントロールすることが可能になります。

単身高齢者の入居を断ることの可否と法的リスク

民法上、賃貸人は、新たな入居申込みに対して契約を締結するかどうか、誰と契約するかを原則として自由に決めることができます(契約自由の原則)。したがって、単身高齢者からの入居申込みについて、個別の事情を踏まえた入居審査の結果、契約を締結しないという判断自体は、直ちに違法となるものではありません。

しかし、契約自由の原則は、対等な当事者間の契約を前提とした原則であり、無制限に認められるものではありません。この点に関連して、専ら国籍を理由に賃貸借契約の締結を拒んだ事案について、裁判所は、賃貸人の対応を不法行為(民法709条)と評価し、慰謝料100万円と弁護士費用の一部10万円、合計110万円の損害賠償を認めました(京都地裁平成19年10月2日)。この判決は、入居審査が進み契約成立が合理的に期待される段階に至っていたにもかかわらず、国籍を理由に一方的に契約締結を拒んだことを問題視したものです。

この判決は国籍を理由とする拒否についてのものであり、高齢であることのみを理由とする入居拒否について同種の判断を示した確定判例は、現時点では見当たりません。日本の法制度上、年齢を理由とする入居拒否そのものを一律に禁止する明文規定も存在しません。しかし、契約交渉が相当な段階まで進んだ後に、「高齢者だから」という理由のみで合理的な説明なく一方的に契約締結を撤回するようなケースでは、上記判決と同様に、信義則違反や不法行為責任を問われる可能性は否定できないと考えられます。

実務的には、単身高齢者であることを理由に一律に入居を謝絶するのではなく、居住サポート住宅への登録、認定家賃債務保証業者の活用、モデル契約条項による残置物リスクの制度的な軽減などを検討したうえで、個々の入居申込みについて具体的な事情に基づく審査を行うことが、法的リスクの観点からも望ましい対応といえます。

当事務所がサポートできること

当事務所では、改正住宅セーフティネット法に関連して、次のようなご相談・サポートに対応しています。

  • 賃貸借契約書・入居審査基準の見直しや、残置物処理等に関する特約条項の作成・リーガルチェック
  • 「残置物の処理等に関するモデル契約条項」に基づく委任契約書・委託契約書の作成支援
  • 居住サポート住宅の認定申請や、終身建物賃貸借事業の認可申請に関する助言
  • 入居者の死亡時における残置物処理・賃貸借契約解除・明渡しに関するトラブル対応
  • 単身高齢者等の入居拒否に関する法的リスクの整理と、社内対応方針の策定支援

制度が新しく、実務の蓄積がまだ限られている分野でもあるため、個別の物件・契約関係に応じたオーダーメイドの検討が重要になります。

お気軽に弁護士にご相談ください

改正住宅セーフティネット法は、単身高齢者等の居住の安定と、大家・管理会社の不安解消の両方を目的とした制度です。しかし、制度を実際に活用するには、居住サポート住宅の認定手続、モデル契約条項に基づく契約書の整備、認定家賃債務保証業者や終身建物賃貸借の活用など、専門的な検討が必要な場面が少なくありません。

単身高齢者の入居対応に関して不安や疑問をお持ちの大家・管理会社の方、あるいは入居を希望される方は、お早めに弁護士にご相談ください。

 

本コラムは、令和7年(2025年)8月時点で公表されている国土交通省の公表資料等に基づき作成しています。個別の事案への適用にあたっては、最新の法令・運用状況をご確認のうえ、弁護士にご相談ください。

代表パートナー・所長 
高橋 英伸
京都大学法学部卒業後、旧司法試験合格を経て2006年に弁護士登録。大阪市内の企業法務系事務所で15年のキャリアを積み、2021年に蒼生法律事務所を開設。相続・共有・所有者不明土地など空き地・空き家問題に注力。宅地建物取引士・相続アドバイザーの資格も保有し、不動産に関わる法的問題を総合的にサポートしています。

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