はじめに(2026年4月から始まった住所等変更登記の義務化)
令和8年(2026年)4月1日から、不動産の所有者が住所や氏名・名称を変更した場合に、その変更登記を申請することが法律上の義務になりました。施行から半年が経過しましたが、「引っ越したけれど登記簿の住所は昔のまま」「本店を移転したのに、会社名義の不動産は旧本店のまま」というご相談は、現在も少なくありません。
この制度は、相続登記の義務化(令和6年〈2024年〉4月1日施行)と同じく、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)による所有者不明土地対策の一つです。登記簿上の住所が古いままだと、所有者に連絡がつかず、公共事業や近隣の土地利用、相続手続などに支障が出ることから、登記簿の情報を最新に保つことが所有者の義務とされました。
本コラムでは、住所等変更登記の義務の内容、法人特有の注意点、負担を軽くする「スマート変更登記」、あわせて始まった「所有不動産記録証明制度」、そして放置した場合のリスクについて、不動産実務の観点から解説します。
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時期 |
内容 |
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令和6年(2024年)4月1日 |
相続登記の申請義務化 |
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令和7年(2025年)4月21日 |
個人の「検索用情報の申出」受付開始 |
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令和8年(2026年)2月2日 |
所有不動産記録証明制度の開始 |
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令和8年(2026年)4月1日 |
住所等変更登記の申請義務化・スマート変更登記の開始 |
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令和8年(2026年)5月15日 |
法人のスマート変更登記(職権による変更登記)の順次実施開始 |
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令和9年(2027年)3月31日 |
施行日前に開始した相続についての相続登記の期限 |
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令和10年(2028年)3月31日 |
施行日前の住所等の変更についての変更登記の期限 |
住所等変更登記義務化の概要
施行日(令和8年〈2026年〉4月1日)
根拠となるのは、不動産登記法(平成16年法律第123号)第76条の5です。条文は次のとおりです。
「所有権の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所について変更があったときは、当該所有権の登記名義人は、その変更があった日から二年以内に、氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければならない。」
義務を負うのは、土地・建物の所有権の登記名義人です。個人か法人かを問わず、個人であれば転居による住所変更や、婚姻・離婚・養子縁組等による氏名の変更が、法人であれば本店移転や商号(名称)変更が対象になります。共有不動産の場合は、共有者それぞれが自分の住所・氏名について義務を負います。
変更日から2年以内の申請義務
申請期限は、住所や氏名・名称の「変更があった日」から2年以内です。相続登記の義務が「相続の開始及び所有権の取得を知った日」から3年以内とされているのとは異なり、起算点は変更日そのものです。転居後しばらく経ってから住民票を移した場合や、何度も転居を重ねた場合には、いつから2年が進行しているのかを早めに確認しておく必要があります。
施行日前の変更は令和10年(2028年)3月31日まで
義務化は、施行日より前に住所等を変更した方にも及びます。法務省は、令和8年4月1日より前に住所や氏名・名称を変更し、まだ変更登記をしていない場合も義務化の対象となり、令和10年(2028年)3月31日までに変更登記をする必要があると案内しています(改正法附則による経過措置)。「昔の住所のまま放置している不動産」は、すでに期限のカウントが進んでいるということです。
正当な理由なく怠った場合の過料(5万円以下)
正当な理由がないのに申請を怠ったときは、5万円以下の過料の適用対象となります(不動産登記法第164条第2項)。なお、相続登記の申請義務違反は10万円以下の過料です(同条第1項)。
もっとも、義務違反があればただちに過料が科されるわけではありません。法務省の案内では、登記官は義務違反を把握しても直ちに裁判所へ過料通知をするのではなく、相当の期間を定めて申請を催告し、それでも正当な理由なく期間内に申請等がされない場合に限って過料通知を行う運用とされています。過料を科すかどうかは、最終的に裁判所が判断します。
「正当な理由」としては、重病である場合や、DV被害等により避難を余儀なくされている場合、経済的に困窮している場合などが想定されています。ただし、単に「知らなかった」「忙しかった」という事情は、一般に正当な理由にはあたらないと考えておくべきです。催告書が届いた場合には、放置せずに速やかにご相談ください。
なお、後述するスマート変更登記の手続(個人は検索用情報の申出、法人は会社法人等番号の登記)をしておけば、その後の住所等の変更は法務局が職権で登記するため、変更のたびに自ら申請しなくても義務違反に問われないとされています(法務省「スマート変更登記について」)。
法人所有不動産の注意点
本店移転・商号変更と不動産登記
実務で特に多いのが、法人名義の不動産の登記漏れです。本店移転や商号変更をすると、法務局に商業登記(会社の登記)を申請しますが、従来は商業登記と不動産登記の仕組みが連動していなかったため、会社の登記を変えても不動産登記簿上の本店・商号は自動的には変わりませんでした。その結果、何度も本店を移転した会社の不動産が、設立当初の本店所在地のまま残っていることも珍しくありません。
本店移転を複数回経ている場合、変更登記の申請には、登記簿上の住所から現在の本店までのつながりを示す書類(履歴事項全部証明書や閉鎖事項証明書など)が必要になり、古い記録の取得に時間がかかることがあります。賃貸物件や事業用地を多数保有している法人は、保有不動産の一覧と登記簿の記載を一度突き合わせることをお勧めします。
なお、合併や会社分割によって不動産を承継した場合は、名義人の表示の変更ではなく所有権移転登記が必要になります。住所等変更登記とは手続が異なりますので、組織再編を行った法人は承継不動産の登記状況もあわせて確認が必要です。
法人のスマート変更登記(令和8年5月15日開始・会社法人等番号の登記が前提)
法人の場合、不動産登記簿に「会社法人等番号」が登記されていれば、スマート変更登記を利用できます。法務省によれば、会社法人等番号が登記された法人について、本店や商号に変更があった場合には、法務局が商業・法人登記の情報をもとに変更の事実を確認し、職権で不動産登記上の住所等を変更します。この職権登記には登録免許税等の費用はかかりません。
法務省は、対象となる場面を次の3つに整理しています。
①会社法人等番号が登記された後に商業・法人登記上の住所等が変更された場合
②既に住所等が変更されており、令和8年5月15日以降に会社法人等番号が登記された場合
③同日より前に会社法人等番号が登記されており、既に住所等が変更されている場合(令和8年5月15日以降、順次スマート変更登記が行われるとされています)
令和6年(2024年)4月1日以降に法人が所有権の登記を申請する場合には、申請書に会社法人等番号を記載することで同番号が登記されます。それ以前から所有している不動産については、オンラインまたは書面で「会社法人等番号の申出」をすることで登記できます。
注意点として、会社法人等番号を有していない法人(外国法人など)は、法務局で変更の事実を確認できないため、スマート変更登記の対象になりません。また、職権登記は完了までに一定の期間を要します。売却や融資の決済が迫っている場合には、職権登記を待たずに自ら変更登記を申請した方がよいケースもあります。
個人のスマート変更登記(検索用情報の申出)
個人の場合は、「検索用情報の申出」をしておくことでスマート変更登記を利用できます。検索用情報とは、氏名の振り仮名、生年月日、メールアドレス、国籍などの情報で、法務局はこれを使って住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)に照会し、住所等の変更を確認します。申出の受付は令和7年(2025年)4月21日から始まっており、手数料はかかりません。
これから不動産を取得する方は、所有権移転登記等の申請書に検索用情報をあわせて記載することで申出ができます。既に所有している方は、法務省の「かんたん登記・供託申請」のページから、電子証明書なしでWebブラウザ上で申出ができるほか、書面で管轄法務局に提出することも可能です。管轄の異なる複数の不動産をまとめて申し出ることもできます。
法務省の説明によれば、スマート変更登記の流れはおおむね次のとおりです。法務局が2年に1回程度、検索用情報をもとに住基ネットに照会して変更の有無を確認し、変更があった方には意思確認通知(メールまたは書面)を送ります。本人が通知から1か月以内に変更登記を希望する旨を回答すると、法務局が職権で変更登記を行います。
ここで実務上重要なのが、スタート時期の問題です。法務省は、令和8年度のスマート変更登記の対象者は令和8年(2026年)3月31日までに検索用情報の登録が完了した方であり、意思確認通知は同年12月中旬以降順次送付すると案内しています。令和9年度以降の対象者や通知時期は、本稿執筆時点では「決まり次第改めて知らせる」とされています。つまり、施行後に申出をした方は、職権登記がいつ行われるか現時点では確定していません。施行日前に住所が変わっている方は、令和10年(2028年)3月31日の期限との関係を意識し、必要に応じて自ら変更登記を申請することも検討すべきです。
また、海外に居住している方は、法務局が住基ネットで住所等の変更を確認できないため、スマート変更登記の対象になりません。海外赴任中の方や海外在住の相続人が不動産を所有している場合は、自ら変更登記を申請する必要があります。
あわせて知っておきたい「所有不動産記録証明制度」(令和8年2月2日開始)
令和8年(2026年)2月2日から、「所有不動産記録証明制度」が始まりました(不動産登記法第119条の2)。これは、特定の人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、登記官が全国の登記記録から一覧的に抽出し、証明書として交付する制度です。自分名義の不動産について本人が請求できるほか、相続人その他の一般承継人は、亡くなった方(被承継人)の名義の不動産について請求することができます(同条第1項・第2項)。
これまで登記記録は土地・建物ごとに作られており、ある人が全国にどのような不動産を持っているかを横断的に調べる仕組みはありませんでした。そのため相続の際に、遠方の山林や私道の持分などが見落とされ、相続登記がされないまま放置される原因になっていました。この制度により、相続登記が必要な不動産を把握しやすくなります。
もっとも、この制度は登記簿上の氏名・住所を検索条件として抽出する仕組みです。登記簿の住所が古いままだと、現在の住所で検索しても該当不動産が抽出されないおそれがあります。また、未登記建物などは対象外です。住所等変更登記をきちんと行っておくことは、ご自身やご家族が将来この制度を有効に使うための前提でもあります。
相続登記義務化との関係と、放置した場合のリスク
相続登記は、令和6年(2024年)4月1日から義務化されており、相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が必要です(不動産登記法第76条の2第1項)。施行日前に開始した相続についても、原則として令和9年(2027年)3月31日までに申請する必要があります。
住所等変更登記を放置したまま所有者が亡くなると、相続登記の際に、登記簿上の住所と亡くなった方の最後の住所とのつながりを証明しなければなりません。住民票の除票や戸籍の附票で住所の変遷をたどれない場合には、追加の書類や説明が必要となり、相続人の負担が大きくなります。
さらに、所有権の登記名義人の死亡を登記記録上で示す「符号の表示」(不動産登記法第76条の4)の運用も始まります。法務省によれば、令和8年(2026年)10月13日以降にされた登記の申請等の審査過程で名義人の死亡を確認した場合や、同年12月下旬以降、スマート変更登記の過程で住基ネット照会により死亡を把握した場合に、符号が表示されることがあります。登記簿から相続未登記の状態が見えるようになることで、相続登記の義務の履行がより強く求められることになるでしょう。
売却・融資・相続時に生じる支障
住所等変更登記をしていないことの不利益は、過料だけではありません。実務上は、むしろ次のような場面での支障の方が深刻です。
売却の場面では、買主への所有権移転登記の申請情報に記載する売主(登記義務者)の住所・氏名が登記記録と合致しない場合、申請は却下されます(不動産登記法第25条第7号)。そのため、売却の前提として住所等変更登記が必ず必要になります。決済直前に住所の不一致が判明し、住所のつながりを証明する書類が揃わずに取引日程がずれ込むケースもあります。
融資の場面でも同様です。不動産に抵当権を設定して借入れや借換えを行う際、所有者の表示が最新でなければ抵当権設定登記の前提として変更登記が求められ、手続とコストが余分にかかります。
相続の場面では、前述のとおり住所の変遷を証明できないことで手続が煩雑になるほか、所有不動産記録証明書の抽出から漏れて相続財産の把握自体が不十分になるおそれもあります。また、共有不動産で登記簿上の住所から所在がわからない状態が続くと、他の共有者から、所在等不明共有者の持分の取得や譲渡に関する裁判(民法第262条の2、第262条の3)を申し立てられる可能性もあります。
当事務所がサポートできること
住所等変更登記を含む権利に関する登記の申請代理や書類作成、その相談を業として行えるのは、弁護士と司法書士に限られています。当事務所では、不動産に関する紛争・取引の実務経験を踏まえ、次のようなご相談に対応しています。
- 所有不動産の洗い出し(所有不動産記録証明書の取得、固定資産の名寄帳との照合など)と、登記簿上の住所・氏名の確認
- 住所等変更登記の申請代理、住所の変遷を証明する書類の収集
- 法人所有不動産の一斉点検、会社法人等番号の申出、本店移転・商号変更・組織再編に伴う不動産登記の整理
- 個人の検索用情報の申出に関するアドバイス
- 相続登記、遺産分割協議、共有不動産の解消に関するご相談
- 登記官から催告書が届いた場合の対応(正当な理由の有無の検討など)
お気軽に弁護士にご相談ください
住所等変更登記は、一つひとつの手続自体は難しいものではありません。しかし、転居や本店移転を何度も重ねている場合、複数の地域に不動産を持っている場合、相続や共有が絡んでいる場合には、思わぬところで手間取ることがあります。施行日前の変更についての期限である令和10年(2028年)3月31日まで、残りは約1年半です。売却や相続の場面になって慌てることのないよう、今のうちに登記簿の状態を確認しておくことをお勧めします。
「自分の不動産の登記がどうなっているかわからない」「会社名義の不動産をまとめて点検したい」といったご相談も歓迎です。お気軽に当事務所までお問い合わせください。
※本コラムは令和8年(2026年)9月28日時点の法令及び法務省の公表情報に基づいて作成しています。制度の運用は今後変更される可能性がありますので、最新の情報は法務省ウェブサイト等でご確認ください。
【主な参照先】法務省「住所等変更登記の義務化について」「スマート変更登記について」「住所等変更登記の義務化に関するQ&A」「相続登記の申請義務化について」、法務省民二第81号通達(令和8年2月2日)、不動産登記法(平成16年法律第123号)、民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)
- 代表パートナー・所長
- 高橋 英伸
- 京都大学法学部卒業後、旧司法試験合格を経て2006年に弁護士登録。大阪市内の企業法務系事務所で15年のキャリアを積み、2021年に蒼生法律事務所を開設。相続・共有・所有者不明土地など空き地・空き家問題に注力。宅地建物取引士・相続アドバイザーの資格も保有し、不動産に関わる法的問題を総合的にサポートしています。
