はじめに(増加する空き家と令和5年改正の背景)
「実家を相続したものの、遠方にあるため何年も放置している」、そのようなご相談が年々増えています。
総務省の令和5年住宅・土地統計調査によると、空き家数は900万2千戸で過去最多、空き家率は13.8%で過去最高となりました。このうち、賃貸・売却用や二次的住宅(別荘など)を除く空き家は385万6千戸にのぼります。1993年の447万6千戸と比べると、30年間で約2倍に増えています。
平成27年に全面施行された空家対策特別措置法は、倒壊のおそれがあるなど危険な「特定空家」への対応を中心とする法律でした。しかし、特定空家になってからの対応には限界があることから、令和5年に法改正が行われ、空き家の活用・適切な管理・除却を推進するための措置が強化されました。
本コラムでは、改正法で新設された「管理不全空家等」と、それに伴う固定資産税の優遇解除リスクを中心に、所有者・相続人の方、不動産事業者の方が知っておくべきポイントを解説します。
空家対策特別措置法の概要
正式名称は「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成26年法律第127号)です。適切な管理が行われていない空き家が地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることを踏まえ、地域住民の生命、身体又は財産を保護することなどを目的として、平成26年11月に公布され、翌年5月に全面施行されました。
この法律は、市区町村に空き家の実態調査、所有者の特定、所有者への指導・勧告・命令、最終的には行政代執行といった権限を与えています。また、所有者等には空き家を適切に管理する努力義務が課されています。
■ 特定空家等とは
「特定空家等」(法2条2項)とは、空き家のうち次のいずれかの状態にあると市区町村が認めたものをいいます。第一に、そのまま放置すれば倒壊等、著しく保安上危険となるおそれのある状態です。第二に、そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態です。第三に、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態です。第四に、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態です。
特定空家等に認定されると、市区町村長は所有者等に対して「助言・指導」「勧告」「命令」を段階的に行うことができます(法22条)。国のガイドラインは、この仕組みについて、財産権の制約を伴う措置が含まれることから、行政指導の段階を経て不利益処分である命令へと移行する、慎重な手続を踏む趣旨であると説明しています。
■ 2023年12月13日施行の改正ポイント
改正法(令和5年法律第50号)は、令和5年6月14日に公布され、施行期日を定める政令により、同年12月13日に施行されました。
改正は、空き家の「活用拡大」「管理の確保」「特定空家の除却等」の3本柱で構成されています。主な改正点は以下のとおりです。
所有者の責務については、従来の「適切な管理の努力義務」に加え、国及び地方公共団体の施策に協力する努力義務が追加されました(法5条)。
活用拡大の面では、市区町村が区域と活用指針を定めて用途変更や建替え等を促す「空家等活用促進区域」と、NPO法人や民間事業者などを指定する「空家等管理活用支援法人」(法23条~28条)が創設されました。
管理の確保の面では、本コラムの主題である「管理不全空家等」に対する指導・勧告の制度(法13条)が新設されたほか、電力会社やガス会社などに対して市区町村が所有者情報の提供を求められるようになりました。
特定空家の除却等の面では、市区町村長に特定空家等の所有者等に対する報告徴収権が付与され、命令等の事前手続を経るいとまがないときの緊急代執行制度が創設され、所有者不明時の略式代執行・緊急代執行の費用徴収が円滑化され、市区町村長に財産管理人の選任請求権が付与されました。
新設された「管理不全空家等」
■ 管理不全空家等の定義
改正前は、市区町村が法的な措置をとれるのは「特定空家等」に限られていました。改正法は、特定空家等になる前の予防策として、管理が不十分な空き家を「管理不全空家等」として、指導・勧告を行うことを可能にしました。
法13条1項は、管理不全空家等を、適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれのある状態にあると認められる空家等と位置づけています。
具体的な判断は、国のガイドライン(「管理不全空家等及び特定空家等に対する措置に関する適切な実施を図るために必要な指針」)や各市区町村の基準によります。たとえば、屋根や外壁の一部の破損、雑草・樹木の繁茂、窓ガラスの割れ、ごみの放置などが典型例として想定されます。建物が倒壊寸前でなくても、「このままでは特定空家になる」段階で行政が関与できるようになった点が、今回の改正の最も大きな変化です。
■ 指導・勧告の流れ
管理不全空家等に対する措置は、次のような流れで進みます。まず、市区町村が空き家の状態を調査し、所有者を特定します。次に、市区町村長は、所有者に対し、国の管理指針に即した管理のために必要な措置をとるよう「指導」します。そして、指導してもなお状態が改善せず、そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれが大きいと認めるときは、「勧告」をすることができます(法13条2項)。
特定空家等と異なり、管理不全空家等に対しては「命令」や「代執行」の規定はありません。ただし、勧告にとどまるからといって安心はできません。次に説明するとおり、勧告を受けた時点で重大な税務上の不利益が生じるためです。また、改善されないまま状態が悪化すれば、特定空家等として命令・代執行の対象となる可能性があります。
固定資産税の住宅用地特例の解除リスク
■ 勧告を受けると特例が外れ税負担が増える仕組み
住宅が建っている土地には、固定資産税の「住宅用地特例」(地方税法349条の3の2)が適用されます。200㎡以下の部分(小規模住宅用地)は課税標準が6分の1に、200㎡を超える部分(一般住宅用地)は3分の1に軽減されます。「更地にするより建物を残しておいた方が税金が安い」と言われるのはこのためです。
改正法の施行にあわせて地方税法349条の3の2も改正され、空家法13条2項により勧告がされた管理不全空家等、及び同法22条2項により勧告がされた特定空家等の敷地の用に供されている土地は、住宅用地特例の対象から除外されることになりました。
つまり、従来の特定空家等に加え、管理不全空家等であっても、勧告を受ければ敷地の特例が外れます。自治体の案内では、土地の固定資産税が約3倍から5倍になる可能性があるとされています(敷地の面積等により増額割合は変動します)。
固定資産税の賦課期日は毎年1月1日です。そのため、年内に勧告を受け、1月1日時点で勧告が撤回されていなければ、翌年度の固定資産税から特例が外れることになります。逆に、指摘された措置を完了すれば勧告が撤回され、要件を満たす限り特例が再び適用されます。
なお、勧告は行政指導と位置づけられており、勧告そのものを訴訟で争えるかについては議論があります。特例除外後の固定資産税の課税に対しては、地方税法等に基づく審査請求などの不服申立てを検討することになります。実務上は、指導の段階で市区町村と協議し、改善計画を示して勧告を回避することが最も重要です。
特定空家等に対する行政代執行
特定空家等の所有者が勧告に従わず、正当な理由なく措置をとらない場合、市区町村長は相当の猶予期限を付けて措置を命じることができます(法22条3項)。この命令は行政処分であり、所有者等は命令に係る措置を行う法律上の義務を負います。命令に違反した場合は、50万円以下の過料の対象となります(法30条1項)。
命令にも従わない場合、市区町村は行政代執行法の定めるところにより、所有者に代わって解体などを行います(法22条9項)。その費用は所有者に請求され、強制徴収の対象となります。解体費用は数百万円に及ぶことも珍しくなく、所有者自身で解体するより高額になりがちです。
所有者が確知できない場合には、市区町村が事前の公告を経て措置を行う「略式代執行」の制度があります(法22条10項)。従来、略式代執行の費用は強制徴収ができず、後に所有者が判明しても任意に支払わない場合、市区町村は民事訴訟を提起する必要がありました。改正法では、この費用徴収が円滑化されています。
さらに改正法は、災害時など、命令等の事前手続を経るいとまがない緊急時の代執行制度(緊急代執行、法22条11項・12項)を創設しました。屋根が崩れかけているなど緊急性の高いケースでは、命令を経ずに代執行が行われる可能性があります。
加えて、相続放棄や所有者不明の空き家については、市区町村長が裁判所に財産管理人の選任を請求できるようになりました(法14条)。民法上の財産管理制度には、不在者財産管理制度(民法25条1項等)、相続財産清算制度(同法952条1項等)、所有者不明建物管理制度(同法264条の8第1項等)などがありますが、民法上は利害関係人等でなければ請求できないため、市区町村長の請求権が明確化されたものです。
所有者・相続人が取るべき対応
■ 相続登記義務化との関係
空き家問題と切り離せないのが、相続登記の義務化です。相続(遺言を含む)により不動産の所有権を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料の対象となります(同法164条1項)。
この義務化は令和6年4月1日に施行されました。注意すべきは過去の相続も対象となる点で、令和6年4月1日より前に相続した不動産も、相続登記がされていないものは義務化の対象となり、原則令和9年3月31日までに相続登記をする必要があります。
登記名義が亡くなった親のままだと、市区町村は戸籍をたどって相続人全員を所有者等として把握し、指導・勧告の通知を送ることになります。相続人の間で誰が管理するかが決まっていないと、通知を受けても対応が遅れ、勧告に至ってしまうケースが少なくありません。遺産分割協議と相続登記を早期に済ませ、管理責任者を明確にしておくことが、空き家リスクを管理する第一歩です。
期限内に遺産分割がまとまらない場合には、自らが相続人であることを登記官に申し出る「相続人申告登記」(不動産登記法76条の3)によって申請義務を履行する方法もあります。
■ 売却・活用・解体の選択肢
空き家の今後の方針は、大きく「売却」「活用(賃貸等)」「解体」「管理継続」に分かれます。
売却については、相続した空き家を一定の要件の下で譲渡した場合に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。令和5年度税制改正により、適用期限が令和9年12月31日まで延長され、買主が売買契約に基づき譲渡後に耐震改修又は除却を行う場合も対象となるよう拡充されました。相続開始日から一定期間内に譲渡する必要があるなど期限要件もあるため、早めの検討が必要です。
活用については、リフォームして賃貸に出す、空家等活用促進区域の制度を利用して用途変更する、空家等管理活用支援法人の支援を受けるといった方法が考えられます。
解体については、解体すれば住宅用地特例は外れますが、倒壊や第三者被害のリスク、管理の手間から解放されます。自治体によっては解体費用の補助制度もあります。
いずれの方法も取らず管理を続ける場合は、定期的な通風・清掃・草刈り、破損箇所の修繕を行い、管理不全空家等と判断されない状態を保つ必要があります。管理が不十分で瓦の落下や塀の倒壊により第三者に損害を与えた場合、所有者は民法717条の土地工作物責任(所有者については無過失責任)を問われる可能性がある点にも注意が必要です。
また、共有名義の空き家では、売却や解体に共有者全員の同意が必要となることが多く、意見がまとまらないことが最大の障害になりがちです。共有物分割請求や、所在等不明共有者がいる場合の裁判所の決定による持分の取得・譲渡の制度(民法262条の2、262条の3)なども検討対象となります。
不動産事業者にとっての空き家ビジネスの視点
改正法は、不動産事業者にとって新たな事業機会をもたらしています。
第一に、管理不全空家等の制度により、所有者が「勧告前に手を打たなければ」と動き出すきっかけが増えています。指導の段階にある空き家の売却・買取、管理受託、リフォーム提案などの需要が見込まれます。
第二に、空家等管理活用支援法人の制度です。宅建業者の関連会社など民間事業者が指定を受ける例も出てきています。支援法人は、所有者の同意を得て市区町村から所有者情報の提供を受けることができ、相談対応やマッチングを行う立場となります。
第三に、低廉な空き家等の媒介報酬の特例です。一定額以下の物件については報酬上限の特例が設けられており、従来は採算が合いにくかった空き家の取引にも取り組みやすくなっています。
一方で、空き家取引には、相続未登記、共有者間の対立、境界未確定、残置物、契約不適合責任など、法的な論点が集中しがちです。取引の前段階で弁護士と連携し、権利関係を整理しておくことが、トラブル防止と円滑な成約につながります。
当事務所がサポートできること
当事務所では、空き家に関する以下のご相談に対応しています。
所有者・相続人の皆さまには、市区町村から指導・勧告の通知が届いた場合の対応方針の検討と行政との協議、遺産分割協議の代理・調停、相続登記に向けた権利関係の整理(司法書士と連携)、共有名義の空き家の共有物分割請求、相続放棄の検討、近隣からの損害賠償請求への対応などをサポートいたします。
不動産事業者の皆さまには、空き家取引における権利調査、契約書のリーガルチェック、財産管理人選任申立てを通じた所有者不明物件の取得スキームの検討などを提供しています。
必要に応じて、税理士、司法書士、土地家屋調査士、解体業者等の専門家と連携し、ワンストップでの解決を目指します。
お気軽に弁護士にご相談ください
令和5年改正により、「倒壊寸前でなければ大丈夫」という時代は終わりました。管理が不十分な空き家は、特定空家に至る前の段階でも勧告の対象となり、固定資産税の負担が大きく増える可能性があります。さらに、令和9年3月31日には、過去の相続分に関する相続登記の期限も迫っています。
空き家の問題は、放置する期間が長いほど相続人が増え、解決が難しくなります。「通知が届いた」「兄弟で意見がまとまらない」「何から手をつければよいかわからない」という段階でも構いません。お早めに当事務所までご相談ください。
- 代表パートナー・所長
- 高橋 英伸
- 京都大学法学部卒業後、旧司法試験合格を経て2006年に弁護士登録。大阪市内の企業法務系事務所で15年のキャリアを積み、2021年に蒼生法律事務所を開設。相続・共有・所有者不明土地など空き地・空き家問題に注力。宅地建物取引士・相続アドバイザーの資格も保有し、不動産に関わる法的問題を総合的にサポートしています。
